法定後見制度のメリットとデメリット

ここでは法定後見制度のメリットとデメリットについて、最も利用されている『後見』類型を例にご説明いたします。

法定後見制度のメリット

1)成年被後見人の財産を動かせるようになる:ご本人が認知症などで判断能力が無くなってしまうと銀行口座は凍結されてしまい、ご家族でも預金をおろすことができなくなってしまいます。成年後見人はその凍結された預金を引き出して、ご本人のために使うことができるようになります。また成年被後見人(ご本人)の不動産の売却なども、家庭裁判所の許可を得て後見人が行うことができます。メリットというよりは成年後見制度の目的のひとつといえるかもしれません。

 

2)取消権がある:成年被後見人のおこなった契約は成年被後見人(本人)や成年後見人が取り消すことができます。判断能力のない成年被後見人が詐欺にあったりして結んだ契約を、あとから取消すことができる強力な権利です。この権利は任意後見人や家族信託の受託者などには無い権利になります。

 

3)厳格な管理
成年後見人の行なった事務は必ず家庭裁判所に報告する義務があります。また自宅の売却など、大きな財産の処分や変更などをおこなう場合は家庭裁判所の許可が必要になってきますので、同居している家族、親族による本人財産の使い込みや、成年後見人による財産の横領なども厳格な管理のもとで防止することができます。

成年後見制度のデメリット

1)ランニングコストがかかる
成年後見制度を利用するにあたり、その申請にかかる書類などをそろえると、ご本人に対する医師の鑑定料などで約10万円以上かかる場合があります。その他に専門職へ書類の作成や届出を依頼すると別に報酬として数十万円かかりますが、もっと重い負担となるのは毎月2万円〜6万円ほどかかる成年後見人への報酬です。金額に差がありますが、報酬額は家庭裁判所がご本人の財産額等を参考に決定するので当事者同士で勝手に報酬額を決めることはできません。また成年後見人制度を利用すれば原則的にご本人が死亡するか判断能力を回復するまで続きますので、報酬も毎月発生し続けます。仮に認知症の方が70歳で成年後見制度を利用して、報酬額が2万円であったとしても、その後85歳まで存命であれば1年で24万円×15年=360万円ということになり、死亡するまで360万円、成年後見人に対する報酬がかかります。

 

2)本人のためだけにしか財産を使えない
家庭裁判所の監視が入るので、家族や後見人の不正は防止される反面、柔軟な財産の運用はできなくなります。成年後見制度を利用するとご本人の財産はご本人の生活のためにだけに使われることになり、株などの投機的な運用はもちろん、不動産の売却なども、その不動産を売却しないと生活費が無い場合や、施設入居ができない場合など、かなり必要に迫られた時でないとできなくなります。家庭裁判所の管理はかなり厳格で、今まで家族のために使っていたご本人の財産も使うのが難しくなります。例えば年に1回、ご本人のお金で家族全員を食事や旅行に連れて行っていた場合、成年後見制度を利用すると、そういった使い方は出来なくなる可能性が非常に高いといえます。またご本人の子が事業資金を銀行から借りる場合など、成年被後見人であるご本人所有の土地や建物に抵当権を設定するなどの行為もご本人の財産を危うくする行為なのでできません。まさに成年後見制度は本人のためだけの制度で、ご家族や他の人のためにはその財産を使うことができなくなります。

 

3)家族が後見人になれるとは限らない
家族が後見人に就任できる確率としては、かなり低いと言わざるを得ません。割合的にはだいたい4件に1件程度です。あとの3件は弁護士、司法書士、行政書士などの専門職が就任するケースです。後見人の選任も家庭裁判所が決定しますが、これについては不服申立てができないので、ご家族の希望にそわない人(特に専門職の場合)が後見人になっても変更することができません。専門職が後見人に就任した場合、今まで見たこともなかった人が訪問し、ご本人の預金通帳や土地の登記済証(権利書)、株券や保険証など、財産に関する一切の書類を持って行ってしまいます。後見事務を遂行するにあたっては絶対に必要なものなので仕方ないのですが、ご本人やご家族にとっては抵抗があるかと思います。

 

4)一度成年後見制度を利用するとやめることができない
上記1)でも触れましたが、成年後見制度は1度利用をはじめると、基本的にはご本人が死亡するまで続きます。ですので、申請して希望した人が後見人に選任されなった時も制度の利用を止めることはできませんし、申請した目的が達成された場合(例えばご本人の定期預金を解約したいと思って行政書士である専門職に後見人になってもらい定期預金を解約して、その後は特に後見の必要がなくなった場合)でも、その行政書士はずっとご本人の後見人でありつづけます(もちろん報酬も発生しつづけます)。

 

5)相続税対策はできない
認知症などで判断能力がなくなった後においては相続税対策はできなくなります。成年後見制度を利用しても基本的に相続税対策はご本人のためではなく、相続人(ご家族)のためであるので相続税対策はできません。