家族信託と後見制度との違い

どちらの制度も認知症や精神疾患、知的障害などで衰えた判断能力を補って、最期までその人らしい生き方を支援する制度ですが、家族信託と任意後見は事前対策、法定後見は事後の処置になります。

 

人にフォーカス後見制度・財産にフォーカス家族信託

法定後見制度にしても任意後見制度にしても、この制度を利用する『本人をどのようにフォローしていくか』。どうしたら『本人』の幸せにつながるかという視点からアプローチしていきます。
例えば法定後見においては、ご本人様が判断能力を失った場合、月にいくらご本人様の財産からお渡ししたら生活の質を維持しながらご本人様らしく生きていけるか。施設に入所を希望されるのか、それともできる限りご自宅で生活したいのか。施設を希望するならどのような施設がよいのかを後見人が本人のために最善と思われる道を選択し決定します。
任意後見制度も同じです。上記のような選択を後見人に任せるのではなく、あらかじめ本人がまえもって決めておくという違いこそありますが、ご本人がどうしたら最後まで本人らしく生活できるか、そのために財産管理はどうするか、身上監護はどうするかを総合的に判断してご本人をフォローします。

 

これに対して家族信託は信託する『財産』に焦点をあてた制度といえます。もちろん財産を信託する人(委託者)の利益や幸せにつなぐための制度ですが、後見制度の『本人をどのようにフォローしていくか』という考えではなく、本人の『この財産をどのように管理、運用したら本人又は本人が指定した人のためになるか』という視点でアプローチしていきます。それゆえ家族信託の内容には身上監護は含みません。家族信託のみの設定の場合、病院や施設の入院、入所の手続きなどの身上監護はご家族の方が、家族という立場で代わりに行うか、それが難しい場合には任意後見制度や成年(法定)後見制度の併用も考えにいれてプランを設計することになります。
また成年後見制度は本人の財産、身上監護を全体的にカバーするのに比べて家族信託はご本人の財産、しかもご本人が指定した範囲内の財産のみに効果がおよびます。そして信託の効果がおよぶ財産については、信託目的にしたがってかなり柔軟に管理、運用、処分することができます。これは後見制度にはなかなかできないことです。

家族内で完結するか、家庭裁判所の監督を必要とするか。

家族信託は基本的には財産を託す人と、託される人で信託契約をむすびますので、契約内容についても当事者同士で合意があれば、信託する財産の使い方について、かなり自由に信託契約の内容を設定できます。対して成年後見制度は法定、任意、いずれにしても家庭裁判所が最終的に監督します。ご本人の財産の使い方について、家庭裁判所の許可が必要であったり、意見を聞いたりしなければいけません。その反面、厳格なチェック体制となりますので、後見人による財産の使い込み等、不正を防止する機能は堅固です。